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本が読めない人ほど『本は10冊同時に読め!』

「読書にはデメリットしかない」という人は、たぶん少ない。読書をすれば知識が蓄えられ、語彙力と想像力が高まる。文章力とコミュニケーション能力も磨かれる。などなど……よっぽどの読書嫌いでなければ、読書のメリットを並列することができるはず。

 でも「読書をする時間がない」という人は、きっと多い。読書のメリットは重々承知だけれど、なんだかんだ忙しくて読書ができない。読みたいのに読めない。読むのが遅い。そういう人はかなり多い。

 かくいう私も、なんだかんだ忙しくて読書ができない人種である。しかも遅読だから、読み始めるとなかなか終わらない。1週間、10日間……下手したら1ヶ月同じ本を読んでいる。今の読書スピードでは1日1冊なんて夢のまた夢だよー! うわーん!

 と、思って手に取ったのが、成毛眞氏の『本は10冊同時に読め!』だった。

 攻撃的な副題「本を読まない人はサルである!」にホイホイされたわけですが、中身もそれなりに攻撃的。だけど「あー、分かる分かる」と頷ける内容でした。Amazonでの評価が、ほぼ真っ二つなのも面白いところ。読み手の感性によって好き嫌いが分かれる読書本です。

「庶民」から脱出したければ「超並列」読書術で本を読め

 帯に「読書術」と記されているけれど、実のところ本書は読書術に関する解説が非常に少ない。その代わり「『庶民』から脱したければ本をたくさん読め」と説いています。

この本で紹介するのは「庶民」から抜け出すための読書術である。
成毛眞著『本は10冊同時に読め!』P.1より引用

「超並列」読書術とは、仕事と人生に効く究極の読書術なのである。
成毛眞著『本は10冊同時に読め!』P.5より引用

 著者が推奨する「超並列」読書術とはタイトル通り、本を10冊同時に読む──10冊の本を並行して読むこと。

 本のジャンルはできるだけバラバラで。寝室やリビング、トイレ、通勤カバン、職場のデスクなどに2〜3冊置いて「ながら読み」「合間読み」をすれば、1日で約10冊の本に目を通すことができる。──というものです。この読書法は別に「『超並列』読書術」と大仰な名前をつけるほどでもないし、読書好きならば10冊とまではいかなくても、3〜5冊の本を並行して読んでいる人はいると思う。

 もしも1冊しか読んでいない人は、試しに2〜3冊を並行して読んでみるとよい。集中力が切れたり「ちょっと飽きたな……」って頃に別の本に移動すると案外、移動先が面白くて止まらなくなる時があるのだ。本書内でも常にいずれかの本をクライマックス状態にしておけば、読書へのモチベーションを維持できると記されているので間違いない。

 ただし、並行して読む本はベストセラーやノウハウ本ではいけないのだとか。それらの本を読む人は「庶民」であり、「庶民」の本を読む人はいつまでたっても「庶民」である。

「庶民」批判、「超並列」推しの攻撃的な読書論

 日本マイクロソフトの代表取締役社長を務めていた成毛氏。外資系IT企業のお偉いさんだったからってわけじゃないんだろうけど、非常に攻撃的で独善的な内容が並列されている。下手したら「バカ」「アホ」「能なし」「ど底辺のクズ」といった言葉が飛んできそうだ。いや、もしかしたら文字として見えないだけで、そのような意味は含んでいるのかも。

 中でも低所得な「庶民」に対する否定的な持論は凄まじいもので、多くの人が読んでいるベストセラーやノウハウ本、成功術をまとめた本を読んでいれば「庶民」。他人と同じ場所に足を運び、同じものを見て、同じ行動をとり、同じものを食べて、同じ感想を抱き、同じ時間の過ごし方をしていても「庶民」のまま。

 且つ、広告に勧められるまま買い物をして、ダイエット法を鵜呑みにして実行し、他人の成功に感動して憧れて、人気店の行列に並んだりバーゲンに出かける人たちも「庶民」からは抜け出せないと申しています。

 本書を読んで嫌悪感を抱く理由の一つが、この「庶民」批判でしょう。日本人は「右向け右」──みんなで同じ行動をしていると安心する人種なので「揃って同じことをする『庶民』は考える力のない人間」といわれてカチンとくるのだと思う。

 私はお正月恒例の福袋争奪戦を見ながら「どうせ中身は去年の売れ残り品なのに……バカだなぁ」とせせら笑い、巷で話題の「必ず痩せる! ◯◯ダイエット法」を脊髄反射で否定し、ベストセラー本や人気作品全般を「なんか盛り上がりすぎて嫌」と距離を置いてしまうタイプだから著者の主張には頷けた。「庶民」でいることが罪だとはいわないけれど、情報に疑いを持たず、ただただ時間と金を浪費するのは悪いことだ。

 正しい情報や知識があれば、そして思考力があれば、生活はより良くなると思う。それこそ「庶民」からの脱出だって可能だろう。「足りない情報や思考力を補うために、たくさん本を読むのは重要だ」という主張は正しい。

 ただ一点、著者が「超並列」読書術を狂ったように推奨する部分には笑ってしまった。ほぼテンプレート化された一文で読書術を勧めてくるものだから、下手な通販番組を観ている(正確には読んでいる)ようだった。多読は大切だけど「超並列」読書術である必要はない。必要な情報を読み取れれば問題ないのです。

完読が「読書」とは限らない、内容を理解するのが「読書」である

 必要な情報を読み取れれば問題ない。このことは本書でも述べられている。

読解力がある人なら1を読めば10を知ることができる。最後まで読み通すのが「読書」とは限らない。内容を理解するのが読書なのである。
成毛眞著『本は10冊同時に読め!』P.110より引用

 じゃあ、読解力がない人は? ──著者の回答を想像するとゾッとするような、寧ろゾッとしない言葉が飛んできて更にAmazonのレビューが混沌としそうです。

 本から得られる情報の取捨選択は間違いではない。もちろん本のジャンルにもよるけれど、ビジネス書や「情報を得るための本」は1冊1冊を丁寧に熟読する必要はありません。うまく不要な部分を読み飛ばして、自分が必要としている、あるいは全く知らなくて「蓄えるべき!」と判断したところだけ熟読すれば良い

 私はこの点を勘違いしていました。情報を得られる本こそ熟読し、まるまる理解しなければならないと思っていた。だから小説よりも読み進めるスピードは遅く、娯楽本より早く飽きがきていたのです。

 必要な部分だけを読み取れればよい……そう考えると、読書に対するハードルが随分と下がる気がしませんか。

読書は遊び、本が読めない人ほど複数冊読むべき

 読書を遊びだと捉えると、更に気が楽になる。いろいろなゲームを嗜むように、いろいろな本に手を出してみる。で、面白くなかったら切り捨てる。もしくは、しばらく時間を置いてからページをめくれば良い。私は『本は10冊同時に読め!』を読み終わった瞬間、そんな結論に至りました。

 読みやすさ的にも本書はとても丁度良い。遅読な私でさえ、3時間ぐらいで十分読み終えることができました。恐らく、他の人なら1時間かからないで読めると思う。時間がない、読書に慣れていない人でも2日あれば十二分に読めるはずです。

 ただし、高圧的な物言いに敏感な人や、真の読書術本を読みたい人には向かないかもしれない。

  • 物言いはともかく筋が通っていればオッケー
  • 読書がテーマのエッセイが読みたい

 上記に当てはまる人は、きっと楽しめる。更に著者と同じ感性──あるいは本記事を読んでも嫌な気分にならない人は面白く読めるので、10冊のうちに加えてみるとよいと思います。意味のない時間を削って読書しろなど、至って健全なことも言っているので。

 最後に、興味深かったのが「読書メモ」を否定している点です。

 以前読んだ『知的生産の技術』では、情報カードを用いた「読書メモ」と、鉛筆を用いた線引きが読書法として紹介されていました。

 しかし、本書では線引きはもちろん「読書メモ」も否定。「そんなものを書いている暇があるなら読め」とのことでした。「読書メモ」は推奨される場合が多いので、バッサリ切り捨てられたのは新鮮だった。面白い。他の読書術本も読んで、メモに関する部分の比較をしてみたいなぁ……なんて思ってしまいました。