ディジョンマスタードを食べ比べてみた
読んでいる本に食べ物が出てくると、なんとなく「私も食べてみたいなぁ」という気持ちになる。食欲が湧くのとは違う。「本当にそういう味がするのかしら」と好奇心が湧いて、ちょっとだけ味わってみたくなるのです。
この好奇心は買い物中にも顔を出すもので、「そういえば、あの本に載ってたな」と唐突に思い出します。現に、輸入食品を扱うスーパーでフランス産のマスタードを見かけた際には『東京の空の下オムレツのにおいは流れる』を思い出した。
その夜のサラダは、セン切りのキャベツ、うす切りのきゅうりに玉ねぎ、それにかいわれ菜が入っていた。「マスタードのおいしいのを使うのがコツ」だそうだが、フランス人はマスタードが好きである。ディジョンという町は、マスタードの町といわれるが、マスタードの大工場があり、世界各国に輸出している。このディジョンのマスタードは味がよくて、一度使ったら他のものは使えなくなってしまう。
石井好子著『東京の空の下オムレツのにおいは流れる』P.166より引用
一度使ったら他のものは使えなくなってしまうなんて……本当だろうか。というより、マスタードにこだわったことがない。違いを考えたこともなかった。
ディジョンマスタードとは、どんなものかしらん。──興味が湧いたので、2つのディジョンマスタードを実食。ついでに比較してみました。
ディジョンマスタードとは?
そもそもディジョンマスタードとはなんぞや? な人のために、キューピーさんから簡単に解説を。
ディジョンマスタードとは、ブラウンマスタード(黒がらし)の種だけ、または油分を除いていない黄がらしの種を粉砕、ろ過して得られたものに食酢、食塩で調整を加えたマスタードのことをさします。
フランスのディジョンで確立された製法に沿って製造したペーストタイプのマスタードをディジョンマスタードと呼びます。
キューピー ディジョンマスタード「What’s ディジョンマスタード??」より引用
メイド・イン・フランスのディジョンマスタード
今回、実食したディジョンマスタードはペルシュロン(PERCHERON/写真左)とファロ(FALLOT/写真右)です。
ペルシュロンはフランス・ベルシー近郊で1927年、ペルシュロン兄弟がビネガー工場を創設したのが始まりです。ペルシュロンで作られたプレステージビネガーは、1989年に国際食品品質セレクションで最優秀賞も獲得しています。
ファロはワインの産地として名高いブルゴーニュ地方のボーヌにて、1840年に創業されました。伝統的な石臼挽き製法でマスタードの種を挽いてペースト状にし、白ワインと混ぜています。
普通の粒マスタードや、アメリカ産のマスタード、日本の和がらしに比べると、だいぶ色が薄めなのが分かります。薄めというかクリームっぽい。
初ディジョンマスタードを実食してみる
「ペルシュロン」ディジョンマスタードのお味
まずはペルシュロンのディジョンマスタードを、そのままパクリ。
本来、マスタードといえば「辛い」味の調味料です。しかしペルシュロンは非常にまろやか。辛さも塩気も控えめで、酸味が目立っていました。辛さ&塩気<<<酸味といった感じ。うーむ、これはたしかにアメリカのマスタードや和がらしとは違う。
味だけじゃなくて、食感もふわっとしている。空気を多く含んだクリームのように、滑らかで柔らかい舌触りでした。
「ファロ」ディジョンマスタードのお味
次にファロのディジョンマスタードをパクリ。
一番最初に感じたのは、しょっぱさでした。本来のマスタードやペルシュロンに比べて、塩っ辛さが強い感じ。
塩気に加えて酸味が強い印象を受ける。そして後からマスタードの香りが来るので、ペルシュロンより爽やかに感じました。
料理に付けて食べてみた
今回はサーモンのムニエルのソース代わりに、ディジョンマスタードをつけてみました。
ムニエルの作り方は簡単に。ノルウェー産のサーモンに摺り下ろしたしょうがを擦り付けて1時間ほど置き、生臭さを抜きます。そして香辛料──タイムやブラックペッパーなど*1を混ぜた小麦粉をまとわせて、多めのバター*2を溶かした熱いフライパンで焼くだけ。
ペルシュロンのディジョンマスタードは、ムニエルにつけてもまろやかさを失わない優しい味わい。また、スパイスの香りを殺すことなく、見事に調和しておりました。個人的には、サーモンのムニエルにはペルシュロンが合うと思いましたね。
塩っ辛い印象を受けたファロのディジョンマスタード。サーモンのムニエルにつけて食べてみると、なんだか味が濃く感じられました。マスタードの塩気だけでなく、サーモン自体の味わいも増した気分。これはこれで美味しい……濃い味が好きな人は、こちらを好みそう。
「ディジョンのマスタードは味がよい」に間違いはなかった!
“一度使ったら他のものが使えなくなってしまう”か否かは片隅に置いといて。たしかに、ディジョンマスタードは美味しいです。
普段の食事でマスタードや和がらしを使う機会は、それなりにある。パッと思いつく限りでもホットドックにフランクフルト、納豆、おでん。ドイツのウィンナーにつけてみたり、サンドイッチのパンに塗ってみたり……。
決して縁遠い調味料ではないけれど、ディジョンマスタードはこれまでのマスタードとは違います。やっぱ舌触りと辛みの違いが大きい。なんだかとても繊細だと思いました。
もちろん料理にも十分使えます。マヨネーズと混ぜ合わせただけで、滑らかなソースが出来あがる──これがエビなどの魚介類や、温野菜にとても美味しいのです。
今までマスタードに違いがあるなんて考えたことなかったけど……もったいないことしてたなぁ。生野菜が美味しい頃には『東京の空の下オムレツのにおいは流れる』に記されていたように、サラダにも使ってみたい。そんな欲が湧いてしまうほど、味のよいマスタードでした。