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ミステリーの答えはどこに?『愚者のエンドロール』を再読してみた【<古典部>シリーズ第2弾】

 <古典部>シリーズ第1弾『氷菓』に続き、第2弾の再読記事でござる。

 実は『愚者のエンドロール』、本シリーズの中でもっとも苦手な作品です。苦手というか、なんというか……一番胸くそ悪いといいますか、読んだ後に「は?……えぇぇ、マジかぁ」ってなったんですよね。前に読んだとき。

 じゃあ今回、読了後になにを思ったかといえば──やっぱり「マジかぁ」でございます。

事件の犯人は誰か、ミステリーの結末を捜す数日間

『愚者のエンドロール』に描かれているのは、前作『氷菓』の後。夏休み終盤の数日間です。

 古典部部長であり本作のヒロイン・千反田えるの誘いで、主人公・折木奉太郎を含む古典部員はビデオ映画の試写会へ行くことになった。ビデオ映画といっても2年F組が文化祭でクラス展示する作品。千反田家とは“家の付き合い”があり、えるに試写会の話を持ちかけた張本人「女帝」入須冬美は、詳細に観て率直な感想を聞かせて欲しいという。

 ところがどっこい、蓋を開けてみたら作品は尻切れトンボ──未完成に終わっていたのです。

「(略)……あの事件の犯人は、誰だと思う?」
米澤穂信著『愚者のエンドロール』P.55より引用

 入須が求めていたのは率直な感想ではなく、物語の続き──結末と事件の犯人だった。

 “省エネ”主義者な奉太郎はもちろん乗り気ではなかった。しかし、えるの「わたし、気になります」と入須女帝の提案。同じ古典部員の福部里志と伊原摩耶花の援護に押し切られるかたちで、古典部は未完成のミステリーの結末と犯人を捜すことになる

前作『氷菓』より濃いめなミステリー要素と後味の悪さ

 2年F組が製作した作品自体が“殺人事件”を扱っているため、『愚者のエンドロール』は自然と犯人の正体や動機、トリックを探る内容になっている。よって学園生活のちょっとした謎と文集「氷菓」の謎に迫った前作『氷菓』よりもミステリーらしい。謎解き要素が濃いめです。

 ミステリー要素に比例して、後味の悪さも増し増しです。その原因ともいえるのが「女帝」入須冬美

 作中でも語られている通り「彼女のまわりの人間は、いつしか彼女の手駒になる*1」ことが、「女帝」と呼ばれる所以のひとつとなっています。

 この“所以”が、本作の後半でまざまざと表れている。「策士」と呼べば聞こえは良いし、味方だったら心強いんだろうけれど……もし隣にいたら嫌な奴だと思うまあ、未だ高校生にすぎない入須女帝は、先輩女帝を駒にすることは出来なかったみたいだけれど。

副題『Why did’t she ask EBA?』について

 さて、『氷菓』に続いて『愚者のエンドロール』にも副題『Why did’t she ask EBA?』が付けられている。直訳すると「なぜ彼女はエバに尋ねなかったのか」もしくは「なぜ彼女はエバに頼まなかったのか」。由来はアガサ・クリスティの推理小説『Why Didn’t They Ask Evans?』です。

 この副題はえるの台詞と、奉太郎の考察にも登場します。

「(略)でも、それならなぜ、誰かに頼まなかったのでしょうか。例えば、江波さんに」
米澤穂信著『愚者のエンドロール』P.223より引用

 そして千反田が気になるといったこと。本郷はなぜ、真実を話さなかった。あるいは話せなかったのか。言いかえれば入須は、なぜ、江波に頼まなかったのか。
米澤穂信著『愚者のエンドロール』P.228より引用

 上記から副題の正しい訳は「なぜ彼女は江波に頼まなかったのか」だと分かります。さらに彼女=入須女帝であることも察せられるでしょう。

 本郷と江波は一体誰なのか。頼めば良かったこととは、真実とはなんなのか──この辺りを書き出すとネタバレになってしまうので割愛(気になる人は本書を読んでみよう!)。

 ただ明確にいえるのは、この副題こそ入須女帝の目的に繋がる鍵であることは間違いありません。あと、語られない江波さんの心境にも繋がるのだった……。

『愚者のエンドロール』は、ミステリーの謎を解くミステリー小説

 謎と後味の悪さがアップした『愚者のエンドロール』。「ミステリーの謎を解くミステリー」な部分だけでなく、2年F組の探偵達のキャラクターや推理も面白く仕上がっていました。

 短編集っぽい雰囲気があった前作『氷菓』に比べて、時系列も内容も一冊でまとまっている本作は「『氷菓』はそれほど入り込めなかったなぁ」という人でも楽しめるのではないのでしょうか。

 私の好きな次作『クドリャフカの順番』にも大きく関わってくるので、ぜひとも読んでいただきたい。

 それにしても、奉太郎の周りには「女帝」が多すぎである。

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*1:米澤穂信著『愚者のエンドロール』P.69、福部里志の台詞より一部引用