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たわしの帖

やれることをやってみるブログ

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甘い絶望を描く『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない A Lollypop or A Bullet』

書籍 書籍-国内小説

 ハタチぐらいのとき「小説 オススメ」で検索すると伊坂幸太郎の『アヒルと鴨のコインロッカー』、梨木香歩の『西の魔女が死んだ』、桜庭一樹の『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない A Lollypop or A Bullet』をやたら推されたことがあった。

 海外小説ばかり広く読んで、国内小説は山田悠介と乙一が中心だった10代。勧められるまま前2作品は読んだけれど、『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』だけは読めずにいました。理由は単純──タイトルから受ける印象がイマイチだったからです。

 砂糖菓子の弾丸って……女の子のサバイバルミステリー? 魔法少女系? 『ルー=ガルー*1』みたいなのだったらどうしよう! と思って積んでいた本書。

 いやいや、読まず嫌いはいかんよ。『少女七竈と七人の可愛そうな大人たち』の作者だし、ラノベ作家から一般文芸作家へシフトチェンジしたきっかけみたいな作品なんだから!

 ──と考え直して読んでみれば、あら不思議。なんとも言い難い悲しさと辛さでいっぱいになってしまった。誰ですか、魔法少女系とか言った奴。……私だ。

“実弾”と“砂糖菓子の弾丸”、弾をこめて撃ち続ける少女たち

 父親を亡くしパート勤めの母に代わって引きこもりの兄を世話する山田なぎさ、13歳は“実弾”を求めている。

 中学を卒業したら兵士になる。生きることに関係のないことには悩まない、関わらないと3ヶ月前に決めたばかり。周りよりも一足先に大人になった彼女は、早く真の大人になりたくて仕方なかった。

 そんななぎさのクラスにやってきた美少女、海野藻屑。芸能人・海野雅愛を父に持ち、都会から来た藻屑は転校初日に断固とした口調で宣った。

「ぼくはですね、人魚なんです」
桜庭一樹著『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない A Lollypop or A Bullet』P.13ページより引用

 人魚を自称し、なぎさの兄曰く“砂糖菓子の弾丸”を撃ち続ける藻屑を、なぎさは「嘘つき」と称しつつなんだかんだで行動を共にする。そして彼女の不思議な魅力に惹かれていくのだが──。

 転校してきてから1ヶ月後。藻屑はバラバラ死体となって、山の中腹で発見されることとなってしまう。

「現実」は生き残った子供だけが大人になれる「戦場」

 上記のあらすじでは海野藻屑の死を結末として記していますが、実際にはです。新聞記事から抜粋した藻屑の死から始まり、転校初日まで巻き戻って物語が進んでいきます

 最初から「海野藻屑は死ぬ」と分かっているけれど──しかも話が進むにつれて藻屑に降りかかり続ける苛烈な暴力と苦しみを、我々読者は察するわけですが。これが言葉にならないほど辛い。

 読み終わった途端、「あぁ、なんで救えなかったんだろうなぁ」とやるせない気持ちになりました。

 特に終盤、担任教諭の嘆きには胸を打たれた。教諭もかつては、なぎさ達と同じ「現実」という「戦場」を生きた兵士で、いつの間にか“暴力も喪失も痛みもなにもなかったふりをしてつらっとして*2”大人になった1人だから。生き残れば大人になれた子供の戦死を防げなかった人の涙は堪えた。うーん、目の前が滲むなぁ。

『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない A Lollypop or A Bullet』に登場する“実弾”や“砂糖菓子の弾丸”は、読んで字のごとくの代物ではありません。前者は金や大人として認められる地位を。後者は子供達の間で語られる作り話や、実用性の薄い知識など指します。

 つまり藻屑はもちろん一足先に大人になって"実弾"を求めてやまないなぎさもまた、必然的に“砂糖菓子の弾丸”をポコポコと撃ちながら「現実」という過酷な「戦場」、そして「学校」という名の「社交界」を生きていたのです。

 この「戦場」と「社交界」は『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』内の架空の環境ではなく、現実に存在している。私もイヤガラセの蔓延る「戦場」と「社交界」を生き抜いた1人だし、友人の中には逃げ出した人もいれば、親友が戦死した子だっている。

 そう考えると、虐待やネグレクト、イジメ、引きこもりが深刻化する現代は子供達にとって過酷な世界だなと思った。もしかしたら……否、もしかしなくても、本書よりもキツい生き残るのが非常に困難な「戦場」に違いない。

 ということで、私の最初の印象──女の子のサバイバルミステリー? 魔法少女系? 『ルー=ガルー』みたいなのだったらどうしよう! は、まったくもって大間違いだった。読んでみれば非常に考えさせられる、超現実的な青春小説でした。

 出来れば「戦場」にいた10代の頃に読んでみたかったなぁ……。大人の立場でも十分深い作品だけれど、多感な頃に読んでいたらどんな感想を抱いたか。つらっと大人になってしまった私には分からない。残念。

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『少女七竈と七人の可愛そうな大人』で切ない夜を過ごす

*1:京極夏彦著『ルー=ガルー ー忌避すべき狼』。全753ページ中、半分まで進んだところで積んでいる。

*2:桜庭一樹著『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない A Lollypop or A Bullet』P.204より一部引用