たわしの帖

やれることをやってみるブログ

たわしの帖

『シャーリー・ホームズと緋色の憂鬱』で微百合とミステリーを楽しむ

 高殿円著『シャーリー・ホームズと緋色の憂鬱』を知ったのは、2014年──pixivにて。大好きな絵師さんが「おすすめです」の言葉とともに、萌えを吐き出していたからでした。

 残念な告白を正直に申し上げると本書は百合漫画だと思っていた。その理由のひとつは「百合」タグで紹介されていたから。もうひとつは絵師さんが漫画の同人絵をよく投稿していて、ホームズ&ワトソンのキャラクターデザインが明確だったからです。

 面白そうだな、いつか読んでみたいな……と思いつつ、すっかり忘れてしまって約3年。年末に某大型書店に足を運んだ時、初めて『シャーリー・ホームズ』は小説だと知ったのでした。恥ずかしい!

 欲求と初回配本限定の箔押しカバーに釣られて読んでみると物語としては面白く、次回作に期待せざるを得ない内容でした。

現代版、男女逆転ホームズ譚

 作品の形態を問わず、現代版シャーロック・ホームズは別段珍しくない。最近でいえば、イギリスBBC制作のドラマ「SHERLOCK」を思い浮かべる人も多いだろう。本作『シャーリー・ホームズと緋色の憂鬱』もジャンル的には現代版だが、それだけに止まりません。

 最も大きい特徴は、主要人物の性別が入れ替わっている──男女逆転ホームズ譚なところです。

 しかも、シャーリー・ホームズが僕っ子。白雪姫のような美貌と類稀なる頭脳を持ちながら「僕には心がない」ときた。もう、個人的にはこれだけで美味しい……知識量は膨大なのに、ある部分だけ著しく欠落してるとか。萌えです。萌え。可愛い。

 そんなシャーリー・ホームズの相棒となるジョー・H・ワトソンは、アフガニスタン帰りの軍医であり(クソ)ハーレクイン作家。“だめんず”に惹かれやすく、物事にも常に流されがち。ホームズ嬢の推理と観察力に「なぁんだ」と言いつつ「すごい!」と目を輝かせる凡人です。

 天才だけど心のないシャーリーと、凡人だけどシャーリー・ホームズに欠けている部分を持っているジョー。この2人の掛け合いや距離感がとても絶妙です。原作の雰囲気を崩さないのが、すごく良い。

 さらに時代設定が2012年、ロンドンオリンピックの頃なのも取っ付きやすいところ。電脳家政婦や人工心臓のくだりは「ちょっとSFすぎるかな?」と思うが、読んでいくと意外と受け入れられちゃうのが摩訶不思議でした。

一冊まるごと“女性向け”小説?

 書評もとい読書感想文として勧めるにあたり、唯一気がかりなのは本書が一冊まるごと女性向けな部分である。「緋色の憂鬱」は女性特有のアレだし、殺害トリックにはアレで用いられる品が使われている。

 内容だけでなく装丁も女性が好みそうなデザインなので、男性は手に取り難いかな……? 後半の「ディオゲネスクラブ」は不穏な女子会ですしおすし。でも、個人的には男性にも読んで貰いたい。そして感想を聞きたいです。

百合ゆりしくないが、続編が気になる現代版ホームズ

「百合」タグによる先入観から「本書は百合モノ」と思っていた──さらに言えば新書版の解説にも「百合ホームズ」と記されているが、実際に読んでみると百合要素は濃くありません。なので百合ゆりしい内容を期待すると、ちょっとガッカリするかもしれない。

 でも作風は、高殿女史が原作を大切にしてくれているのでシャーロキアン(熱狂的な原作ファン)も楽しめる。そして『シャーロック・ホームズ』を読んだことがない人でも、すんなりと没頭できるようになっています。

 特に中盤以降はシャーリーやジョーの過去、今後の展開に関する伏線が張り巡らされています。終盤のジョーとホームズ姉の会話なんて、波乱な未来な待ち構えてる感たっぷり。あれは続編を期待するなっていうほうが無理!

 冒頭の漫画や扉絵でシャーリー&ジョーのキャラデザが完成されているせいか、マンガ化されても違和感がないと感じました。まあ、設定や展開もぶっ飛んでるし“マンガ映え”する作品なのかな。

 とにもかくにも「バスカヴィル家の狗」やモリアーティとのアレソレなど、いろいろなフラグが立ちまくっているので絶対続編があると信じています。そして出たら買う。間違いない。

 事件の展開やトリックなどもミステリー小説として申し分ないクオリティ。女性特有の雰囲気やネタでも物語として楽しめる、抵抗がない人にはオススメなホームズ譚です。

 余談ですが、文庫版には解説文がありません。代わりに扉絵がまとめて掲載されています。解説文も読みたい! という人は新書版がオススメです。