嘘だらけの『暗黒女子』は、女子のドロドロがいっぱい!
秋吉理香子著『暗黒女子』が映画化されると知ったのは、主演を演じる女優の出家騒動がキッカケだった。
無事に公開が決まり、試写会のもようを芸能ニュースで見て初めて「この映画の原作、私持ってるんじゃない?」と思い出したのです。
そう、実は忘れてた。約3年前に読了していたことを。
大まかなストーリーとオチ、そして「うーん、なんか物足りない」という感想のみを覚えていた『暗黒女子』。もう二度と開くことはないだろうなぁ……って思っていたのだけれど。折角だから再読してみようと、読了本の山から引っ張り出してきました。
『暗黒女子』はズバリ、女子特有の“イヤミス”ですぞ。
美少女殺しは誰?指さしあう女子同士のドロドロがいっぱい
舞台はミッション系──キリスト教の信仰に基づいた教育を行う、お嬢様学校。ある日、聡明で美しく、誰もが憧れる学校イチの美少女・白石いつみが死んだ。花壇のなかですずらんの花を片手に血塗れで倒れていた彼女は、真上にあった人気のないテラスから転落したとみられている。
白石いつみはなぜテラスから転落したのか──事故か、自殺か、はたまた他殺か。
謎に満ちた美少女の死はやがて「白石いつみが会長を務めていた『文学サークル』の誰かが、彼女を殺した」という噂を生み出した。そして悲しみに暮れる女子生徒たちの間で囁かれ、広まっていく。
いつみの死から一週間後。文学サークルでは闇鍋を食べながら、各自が執筆してきた短編小説の朗読を聞く「定例闇鍋朗読会」が開催された。薄暗いサロンの中、”鍋奉行”であり前副会長──現会長・澄川小百合の口から改めて発表された、小説のテーマは……。
──そう。今回のテーマは、前会長である白石いつみの死。
秋吉理香子著『暗黒女子』P.15より引用
奨学金で通う新入生、洋菓子や洋食を作るのが得意な料亭の長女、たった一人の留学生、医者志望の理系女子、高校生にして現役作家──彼女たちが書いた作品は、いつみの死を悼みながら互いに「彼女を殺したのはコイツだ」と指さしあっている。
この子はどれだけ性格が悪く傲慢で、卑しく、醜悪な心の持ち主か。愛してやまない私のいつみが、どんなに苦しめられ追い詰められたか。朗読で暴露しながら進んでいくストーリーは、女子のドロッドロした部分が丸見えになっています。本当、女子って怖い。というかみんな性格悪すぎ。ガクブル。
文学サークルの「白石いつみ崇拝」が気持ち悪い
女子のドロッドロのドロな内面も怖いし気持ち悪いのですが、それよりも私は文学サークル(というより女子生徒たち)の「白石いつみ崇拝」が気持ち悪かったです。
というのもですね、彼女たちが書き綴った小説内で「白石いつみ」は頭のテッペンから四肢の爪の先まで美しく、洗礼された容姿を持ち、秀才で聡明で思いやりに溢れ、誰かの為に行動を起こすことができる。外見だけでなく中身も素敵で素晴らしい、完璧な美少女──この世に生まれ落ちた女神とばかりに崇め奉っているのです。
もう『暗黒女子』を読みながら何度「そんな人間いるわけねーだろバカ!!」と叫び、本を閉じて床に叩きつけたくなったことか。
「白石いつみ崇拝」に対する不快感は、約3年経っても変わりなかった。気持ち悪いー! 気持ち悪いよー!! 尋常じゃない崇拝っぷりのおかげで不快感満載だし、違和感しか感じない。“イヤミス”って、特定のキャラクターをイヤだ! 気持ち悪い! と感じるミステリーのことだっけ? って気分になりました。
しつこいぐらいに叫びたい。そんな完璧女子いるわけないから! バーカ! 現実見ろ!!
面白さの絶頂はラストにやってくる!最後まで油断せず『暗黒女子』を味わうべし
ストーリーの面白さと秀逸さに関していえば「もう少しスパイスを効かせて欲しかったなぁ……」というレベル。ミステリーやサスペンスを期待して読み始めると、ちょっとガッカリするかもしれない。ある程度の展開も読めますしおすし。
しかし『暗黒女子』の本領発揮は終盤──それも、最後の最後にあります。
最後まで読んだ率直な感想は「あー、スッキリした!」でした。胸の内に溜まったモヤモヤがスッキリさっぱり。一応“イヤミス”の部類に入るみたいだけれど、私の中では“イヤミス”じゃないです。普通はスカッとしないものなんだろうけど……あれ?
それに女子のドロドロ部分に関しても「現実の女子はこんなもんじゃない」感はある。もっとドロッドロのドロだよねぇ……甘い、甘いわぁ。でも、事細かに表現したら映画化は出来ないだろうから、これぐらいのライトさが創作物としては最適だったのかもしれない。
ほどよい女子の怖さ──可憐で輝かしい笑顔の裏に、どんな醜い一面を隠しているか。その一部を巧みに描いた『暗黒女子』。“イヤミス”初心者にも読みやすいと思います。ラストまで行き着けば「案外、面白いんじゃないの」と感じる可能性大なので、ぜひ最後まで読んでいただきたい。
あと、映画を観る予定の人も読んで欲しいです。原作を読んでいれば映画内でカットされている部分に気付いたり、逆に映画オリジナルのシーンを発見できるかもしれませんからね。