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たわしの帖

やれることをやってみるブログ

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古典部vs十文字!『クドリャフカの順番』を再読してみた【<古典部>シリーズ第3弾】

書籍 書籍-国内小説

 やってきました、<古典部>シリーズ第3弾。『クドリャフカの順番』の再読でございます。

 本音を言いましょう。私は本作がシリーズ内で一番好きです。

積まれたアレを想う真夜中から始まる、古典部員の文化祭3日間

氷菓』『愚者のエンドロール』を経て、ついにやってきた神山高校文化祭(通称カンヤ祭)。本番前日の夜──日付が変わろうとする真夜中から、物語は始まります。

 それぞれの想いを胸に迎えた文化祭1日目の朝。部室である地学講義室に集合した古典部員3人──折木奉太郎、千反田える、福部里志の眼前に鎮座していたのは、限りなく積まれた文集「氷菓」だった。

 さして厚くもない文集でも、二百部が積み重なると「山のよう」になるのだということを、俺は学んだ。
米澤穂信著『クドリャフカの順番』P.41〜P.42より引用

 手違いで作りすぎてしまったものは仕方がない。委託販売にイベント参加に古典部の宣伝に……と、各自があの手この手で売り込みを試みます。が、売れ行きは決して「絶好調」とは言い難いものでした。

 ある程度売らねば無駄になる。なにより折角作った「氷菓」が誰にも読まれずゴミと化すのは非常に悲しい。──頭を抱える一方で、学内では連続盗難事件がひっそりと、しかし確実に発生していた。

 盗まれた後に必ず残されるカンヤ祭のパンフレットと、「十文字」の署名入りカード。奇妙な犯行は、えると里志、漫画研究部を兼部している伊原摩耶花が参加したイベントでも発生。間接的にその被害を被ってしまいます。

 被害情報とカードから「『十文字』事件は『古典部』を売り込むチャンスなのでは?」と踏んだ奉太郎たち。古典部の知名度を上げ「氷菓」の売り上げを伸ばすために、4人は「十文字」との対決と盗難事件の解決に挑みます。

 果たして「十文字」の正体は誰なのか。そして、文集「氷菓」は完売できるのか──。

<古典部>シリーズ初の多視点形式

 これまで折木奉太郎の単視点で進んでいた本シリーズ。今回は文化祭が舞台であり主人公でもあるので、古典部員4人の視点から「カンヤ祭」が描かれています

 各々がどのように文化祭を楽しみ、また「氷菓」販売のために奮闘しているかなどが読みとれるのはもちろん。前2作では語られることのなかった、えるたちの思考や心情も表現されている。

 える、里志、摩耶花がなにを考え、なにを感じているのか。どんな感情を心の中で抱いていたのか。初めて読んだときは「切ねぇ」と思ったし、再読した今回もやっぱり「切ねぇ」と思いましたね。あと、千反田えるが可愛い

文化祭と青春はトラブルなしでは終われない

「(略)ま、っていうより、古典部の文化祭はトラブルなしには終わらないの。それが伝統だからね」
米澤穂信著『クドリャフカの順番』P,20より引用

 奉太郎の姉・供恵の台詞どおり、古典部には「山のような文集」というトラブルが発生します。──が、トラブルが巻き起こるのは古典部だけではありません。

「十文字」事件を始め、摩耶花が兼部している漫画研究会での問題。トラブルとは違うけれど、“省エネ”奉太郎の身に降りかかる「わらしべプロトコル」などなど。小さなアレコレが多視点を活かして描かれています。

 アレコレが最終的に一本にまとまる展開は、読んでいてとてもゾクゾクしました。ページを捲るのがやめられない止まらない

 そして前2作同様、“トラブル含めただ愉快な文化祭”では終わりません。

 文化祭のキラキラとした時間と空間の中には10代特有の複雑な心境や不器用さ、青春の光と闇もきちんと練り込まれている。ポップで華々しい3日間の喧噪が過ぎ去ったラストは、いろんな切なさが溢れかえっていました。あぁ、楽しいことが終わった時ってこんな感じだよねってなる。若いな、懐かしいなぁ……。

副題『Welcome to KANYA FESTA!』について

 さて、本作も副題がつけられています。日本語訳はストレートに『カンヤ祭へようこそ!』。唯一、由来がない副題です。

 神山高校文化祭は、なぜ「カンヤ祭」と略すのか。その経緯を「氷菓」事件で知っている古典部員は、必要以上に略称を使用することはありません。作中でも文化祭と呼ぶだけだったり、正式名称を用いています。

 ただ一つ不満があるとすれば、題字が「第四十二回カンヤ祭」とあることです。神山高校文化祭は、神山高校文化祭が正式名称であって、カンヤ祭というのはあまり意味のよくない俗称です。
米澤穂信著『クドリャフカの順番』P.53〜P.54より引用

 よってこの副題は古典部員や経緯を知っている人を除く、その他神山高校生と関係者の純粋な叫び。やっと始まった文化祭に来訪したすべての人(我々読者も含む)を歓迎する、純然たる気持ちだということが伺えます。

『氷菓』から始まった「文化祭3部作」、ついに終演

 高校の文化祭独特の雰囲気や熱、浮つきが伝わってくる本作。「十文字」事件を含めて“学園ミステリー”と呼ぶに相応しいストーリーでした。多視点も新鮮で、古典部員4人の個性を改めて知れたのも楽しかったです。

 加えて『氷菓』『愚者のエンドロール』『クドリャフカの順番』のなかで、一番後味が軽やかだったのも良かった。もちろん切ない要素はあるし、個人的には里志の心情にかなり胸を打たれたのだけれど。それでも、後味や気持ちの悪さはありません

 前2作にも登場した壁新聞部部長や、「女帝」入須先輩もしっかり登場。振り返るとまさに「文化祭3部作」の括りがピッタリ当てはまる展開です。<古典部>シリーズには変わりないけど、『クドリャフカの順番』はある意味“終演”となる作品でした。

 うーん、やっぱり好き!!

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