『遠まわりする雛』で古典部の1年を振り返る【<古典部>シリーズ第4弾】
どうも。最近は“読書の敵”と言っても過言ではないゲームに夢中な私です。この記事で紹介したい本は進撃の再読……<古典部>シリーズ第4弾『遠まわりする雛』でございます。
第1弾、第2弾、第3弾と続いた<古典部>シリーズ。本作は初めての短篇集です。主人公であり“探偵役”でもある折木奉太郎が神山高校に入学して1ヶ月後から、翌年4月の春休みまでを描いた7篇が収められています。
これまではどう足掻いても“文化祭要素”が濃いストーリーばかりだったけれど、今回は奉太郎たちの日常や学園生活での「謎解き」が主となっています。
アニメ化されたのは、この『遠まわりする雛』までなのでしょうか? 未視聴だけど、奉太郎が烏帽子っぽいのをかぶっている画像を見た覚えがあるような。ないような……。
奉太郎たちの生活と青春に紛れ込んだ“日常”ミステリー
七不思議に迫る「やるべきことなら手短に」
『遠回りする雛』の1篇目は、入学から1ヶ月経った放課後を描いた「やるべきことなら手短に」。この時点で古典部部長、千反田えるは伊原摩耶花の存在を知りません。
なので時系列としては『氷菓』第1話「伝統ある古典部の再生」と第2話「名誉ある古典部の活動」の間にあたります。
“省エネ”主義を掲げる奉太郎の元へ、古典部員であり手芸部員と総務委員でもある福部里志が神山高校に存在する七不思議を持ち込んでくる。その七不思議とは、秘密倶楽部──「女郎蜘蛛の会」の存在。謎の倶楽部に繋がる手がかりは、勧誘ポスターに紛れ込んでいる1枚のメモだけらしい……。
七不思議を聞いて気にならずにはいられないお嬢様の「わたし、気になります」をキッカケにして「やらなくてもいいことなら、やらない」奉太郎が自発的にメモを探すため動き出します。
憤怒の「大罪を犯す」
『氷菓』第2話「名誉ある古典部の活動」の後──摩耶花が古典部に入部して約1ヶ月経過した6月の話。
見た目にも実際にも怒ったりしなさそうな千反田えるが、教師相手に一悶着を起こした。その教師は教えていない範囲の問題を出して答えられなかった生徒たちを激怒。進度の範囲を勘違いしていることに気付いたえるが指摘するものの……激しく言い合う結果になってしまったという。
授業前にはクラスや進度を必ず確認し、採点などでも間違いの少ない教師はなぜ勘違いを起こしてしまったのか。気になるえるは「折木さんなら、考えれば分かるのでは!?」と目を輝かせる。
曰くつきの部屋に浮かんだ影の「正体見たり」
時は8月、夏休み。時系列で見ると「女帝」事件(『愚者のエンドロール』)の前です。
摩耶花の親戚が営む民宿で「氷菓」事件の労を労う意味も込めた、“温泉合宿”をすることになった古典部ご一行。食事を共にしていた民宿の長女が夜、えると摩耶花、里志と怪談話に興じます。
翌朝、摩耶花が珍しくうろたえた様子で朝食に現れる。話を聞けば前夜の怪談話に登場した「首吊りの影」が、曰くつきの部屋に現れたという。そして同室のえるもまた、一緒に影を見たと奉太郎の耳元で囁いたのだった……。
謎の校内放送「心あたりのある者は」
数々のトラブルが巻き起こった神山高校文化祭(『クドリャフカの順番』)が終了し、秋めいた11月1日の放課後。古典部の部室でもある地学講義室にて。
「氷菓」事件、「女帝」事件、「十文字」事件で奉太郎がみせた活躍を誉めそやすえる。一方、誉めそやされた奉太郎は納得がいかない。先の件はすべて“運”による解決であり“有能”だからでは決してない。正しい推論も理屈もつけることは出来ないといって譲らなかった。
そんな2人きりの空間に不可思議な校内放送が入る。放送の目的はなんなのか──自分の主張を証明するため奉太郎とえるは、放送に含まれた意味を推論するゲームを開始します。
新年「あきましておめでとう」
1月1日、元旦。えるに誘われた奉太郎は、摩耶花が巫女のバイトをしている荒楠神社へ初詣に行くことに。
日が暮れて寒さが増してもなお参拝客が少なくない神社の社務所は、やや多忙な様子をみせていた。その光景にえるは友人であり宮司の娘でもある十文字かほに、手伝いを申し出る。頼まれた使いに奉太郎も、もちろん同行します。
時間のかからない簡単な頼まれ事だと思っていたが……重なった不運とアクシデントにより、神社の隅に建てられていた納屋に閉じこめられてしまう。なるべく大事にせず解決したいえるのため、奉太郎はしっかりと閂(かんぬき)がかけられた納屋からの脱出方法を考え始めます。
1年ぶりの雪辱戦と「手作りチョコレート事件」
入学から10ヶ月後の2月14日。中学生活最後のバレンタインに里志からチョコレートの受け取りを断られてしまった摩耶花は、雪辱戦に燃えている。
材料からこだわった摩耶花は本格的な“手作りチョコ”を作り上げた。兼部している漫画研究部の関係で直接は渡せないが、放課後の部室できちんと渡す手筈は整えているらしい。──とチョコレート作りに協力したえるは昼休みに、笑顔で奉太郎に語っていた。
ところが、不測の事態を迎える。なんと部室が無人になった短い間に、何者かによって摩耶花の“手作りチョコ”が盗まれてしまったのだった──。
心揺れる「遠まわりする雛」
春休みの4月3日。奉太郎はえるの頼みで「生き雛まつり」に参加することになる。
小さなアクシデントはあるものの、予定通り行われるはずだった雛祭り。スタートまで間がない頃になって開催事態が危ぶまれる事件が発生してしまうが、えるの機転でなんとか執り行われます。
偶然にもすべての目撃者となった奉太郎と「生き雛まつり」の開催に一役かった形となったえるは、それぞれ残された謎──なぜ開催が危ぶまれるような事態が発生したのかを考えていた。
すべてが終わった後、千反田家の縁側で2人は互いの推理を聞きあいます。
副題『Little birds can remember』について
『遠まわりする雛』の副題はアガサ・クリスティの推理小説『Elephants Can Remember』が由来です。直訳すると「雛は忘れない」。
短篇集なので、これまでのように「副題の意味はこの部分だ!」とはちょっと言いにくい。ただし、雛=古典部4人と考えるとしっくりする気がします。たとえば里志と摩耶花は1年前のバレンタインで抱いた感情を忘れていなかったし、正月に神社の納屋に閉じこめられる経験は大人になっても忘れられそうにありません。
また、『氷菓』から掲げられている奉太郎のモットー「やらなくてもいいことなら、やらない。やらなければいけないことなら手短に。」が、ことごとく崩れていく様子がハッキリ分かるのが本作です。
これまでも、そして今後も“省エネ”は変わらず。そしてバラ色ではなく灰色の高校生活となるだろうと入学直後に考えていた奉太郎にとって、える達と過ごした1年間は絶対忘れられないはずです。
さらに奉太郎についていえば、やっとえるへの恋心を自覚します。まあ、恋をしている直接的な表現はないけれど……今まで知らぬフリをしていた千反田える限定でモットーが通じない現象の認知と、印象的な光景と共に「千反田を見たい」心境がすべてを物語っています。青春だー!
『遠まわりする雛』の後、2年生になった古典部には何が起こる?
こうやって考えると雛=折木奉太郎でもあるのかしらん。表題『遠まわりする雛』には、なんやかんや理由をつけて気持ちを認めることに“遠まわり”し続けた奉太郎と「生き雛まつり」で起こった事件。この2つの意味を込めて付けられたとしたら個人的にとても胸熱です。考えすぎかもしれないけれど。
奉太郎とえる、里志と摩耶花の恋もだけれど、本作では将来に関して初めて語られる部分もあります。
これから奉太郎たちの関係がどう変化するのか。どんな事件が起こり、青春を謳歌して成長するのか。2年生に進級する次作がとても楽しみになる『遠まわりする雛』。古典部の今後が気になります! と叫びたくなる内容でございました。